伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第十四回
文部科学大臣奨励賞
水中の光を編んで平泳ぎ
平泳ぎをしている時、ちょうど太陽の光が水中に差し込んでプールの底に映っていました。その光を平泳ぎで水を掻く自分の手が、まるで編んでいるかのようだった夏の学校のプールでの出来事を思い出しながらつくりました。
水泳を、やや高いスタンドから応援のため見ていた。種目が平泳ぎなので、身体全体の屈伸の姿勢がよく見て取れる。水しぶきの立つのを上から見て、まるで光を編んでいるように眺められた。「水中の光を編む」という、女子学生らしく「編む」という感覚に結びつけたことで白い清新な感覚が生まれてきた。
小学生の部大賞 (幼児含む)
鉛筆をけずれば森の木のにおい
いつもは鉛筆削りで鉛筆を削っていますが、カッターナイフでも削れると教えてもらい試してみると、木を削っているような感じがしました。鉛筆は木で出来ていて、木が沢山集まっている森から木を切って作っているんだと思うと、削ったときにする“におい”は森の木のにおいだと感じました。
この木は鉛筆削り機で削った感じよりも、ナイフで削ったあとの木の匂いの感じがする。また学校の教室というより、森の中にある校舎もしくは森の青い影がかぶさる家の中の窓辺であり、この一句に季語が無いが、森の青いイメージと少女が感じた匂いとで一本筋の通 った作品になった。
中学生の部大賞
目白鳴く祖父窓ぎわに長く立つ
前日の雨で、しずくが木に残っていました。そこへメジロがやってきて鳴いているのを祖父が窓の前に立って、ずっと見ていました。この頃、祖父は体調が良くなかったので、早く元気になって欲しいと願いを込めて作りました。
メジロは秋の暮に渡ってくるが、目白押しというコトバがあるように枝にたくさんとまって鳴く。春にも見られるが鳴き声がよいので飼う人もいる。おそらくおじいさんは、この鳥が好きでその声を聞きたさに絶えず窓ぎわに立っているのだろう。
高校生の部大賞
グローブで太陽かくす夏の試合
ソフトボール部に所属しており、ポジションはセンターでした。夏の試合では、太陽がまぶしくてボールが見えなくなってしまうので、「ボールが飛んできたらガッチリ捕るぞ!」という気持ちでグローブで太陽をかくしています。
野球は炎天下でも試合をする。ドームのあるようなプロの野球と違って炎天下で、そして夏休みを利用して対抗試合をする。顔と手足が灼けて、それでも元気で声を出す。でも、太陽の光りが照りつけたり、そんな中で球がとんできたりすると、グローブで太陽をかくしながら大きな声を出すのです。グローブに高校球児のキビキビした動きが感じられる。
一般の部A大賞 (40歳未満)
駆け上がるたびに広がり山桜
転勤族で引越しが多かったため故郷がなく、故郷の風景に憧れていました。昨年の春、10年ぶりに実家のある奈良県に引越してきました。吉野桜が有名で、ここが20代最後の場所と思いました。盆地なので色々な風景が望め、春には桜が咲き、気持ちが満たされます。
桜の名所の吉野山の下千本、中千本、上千本という山桜の眺めを想像した。花の絶景が多すぎて広すぎて、山を駆け上ったり下りたりして桜の花を賞でるのでしょう。最近でこそ「染井吉野」が有名だが、やはり桜は吉野の山桜が一番。むかし西行も吉野に庵を結んで花の美しさを心ゆくまで観賞したことでしょう。
一般の部B大賞 (40歳以上)
春の波ここから海がめくれそう
旅行に行き、海岸沿いの高台にある旅館に泊まったときのこと。窓から外を見下ろすと、平らな渚の海が見え、波うちぎわだけに白い波が立っていて、まるでレースのようでした。その波に指を引っかけて「ぺろん」と、めくれたら面白いと思いました。
下句の「ここから海がめくれそう」という表現が巧みだ。ひねもすのたり・・・の春の波も、時により白波を立てたりすることもあるが、そこからの作者のイメージの連想が見事。「海がめくれる」という見方、感じ方に、すごく新鮮な風景を見た思いだ。まさに風景が生きているという感じがする。
英語俳句の部大賞
Lone heron
turns its back on the ice
catching sunrays
訳/ 背を向けて 氷上の鷺陽を受ける
動作を途中で止めたまま、凍りついたように動かない鷺、…。一瞬、向きを変えた!何で?欧米では「俳句とは a moment of awareness、 a mild shock の詩」といわれるが、この俳句はまさに、その典型。3行目がオチ、起・承・転・結の結に相当する。