過去の受賞作品

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  • 過去の受賞作品 第二十七回 

伊藤園 お~いお茶新俳句大賞

文部科学大臣賞

ただいまの静かに響く金魚鉢

埼玉県 吉村 英竜 15歳

家族がいない時に帰宅したのに、大きめの声で「ただいま」と言ってしまった。当然返事はなく、声だけが響き、ふと見た金魚鉢の金魚がこちらを向いているだけでした。そんな光景を句にしました。

「ただいま」と大きな声をあげて帰宅したのに、家には誰もいないのか。なんの答えもありません。玄関脇にある金魚鉢に、自分の声が空しく響くだけです。金魚鉢はそれほど大きいものではなく、おそらく一匹か二匹の金魚が、ぼんやりと浮いているだけなのでしょう。「静かに響く金魚鉢」は、空っぽの家中の反応のなさのなかにあって、「ただいま」の声に答えてくれるただ一つの生きもののこだまのように感じられます。金魚鉢に焦点をあてたところが、ズンと胸に響きますね。

小学生の部大賞 (幼児含む)

からすの目ぼくをうつしてとんでった

秋田県 今井 海里 6歳

電線に止まったカラスを見ていたら、急にカラスが飛んで行ったので驚きました。それを句にしました。

カラスの目玉は大きくて真っ黒ですね。だから物の姿や景がよく映ります。その目をじっと見つめていると、見ている僕の姿までそこに映っている様子がみえてきます。突然そのからすが飛び立っていくと、からすの目玉に映った僕の姿も、からすの鏡のような目玉ごと、一緒に飛んでいったような気がしてきます。「ぼくをうつしてとんでった」は、からすの目玉をカメラにたとえたカメラマンの早業のように、見事なシャッターチャンスをとらえたものでした。

中学生の部大賞

三日月をせもたれにして魚釣り

福岡県 川原 凱道 14歳

忙しい毎日の中、夜、空を見上げると三日月が出ていました。誰にもじゃまされず、三日月を背もたれにして釣りをしたら、楽しいだろうなと思って句にしました。

見事な三日月の出ている夜。魚釣りを楽しんでいます。或いは魚釣りをしている人を見ているのかもしれません。釣り人は同じ位置で、じっとしています。ちょうど三日月さまが釣り人の背の位置にあるような感じで、長い時間が過ぎて行きます。そこを「三日月をせもたれにして」と喩えたのです。夜釣りの景を大きな宇宙の空間に広げて、童話の挿絵のように想像の翼を広げたところが、素晴らしいですね。

高校生の部大賞

教頭がスルメをひとつ買っていた

沖縄県 古謝 巧真 17歳

学園祭で出店をした時、教頭先生が駄菓子のスルメを一つだけ買ってくれたことにインパクトを感じて、この句をつくりました。日頃はあまり身近に感じていなかった教頭先生の姿にとても親近感を感じました。

教頭先生が買物をしている様子を偶然見つけたのでしょう。先生はこちらには気づかないようです。見ると、スルメを一つ買っています。晩酌の肴にするため買ったのでしょうか、一つだけですから一人で飲むためのものでしょうか。生徒が見ていると知ったら買わなかったかもしれません。おそらく日頃、威厳を保っている人だからです。なんだかバツの悪いところを見ちゃったために、かえって先生を身近に感じたような嬉しい気持ちになってきます。

一般の部A大賞 (40歳未満)

花明かり同じ余韻を持つ人と

茨城県 吉澤 千恵 37歳

ずっと心待ちにしていた映画を観た後、その余韻にひたりながら二人で花明かりの中、石畳の道を歩いている情景を句にしました。この世で同じ時間に居合わせて同じことについて心を巡らせるようなことは、本当に貴重だと思います。

桜の花が満開になった夜です。闇のなかで花が咲いていると、花の明るさで、まわりがぼおーっと明るくなったような気がしてきます。その中にいると、花の明るさが暗いところにまでも響くような、またその響きが自分自身にも残っているような感じになる。それが余韻です。そんな花明かりの中に、同じように茫然と立っている人がいます。ああ、この人もそうなのかと思うと、花明かりの余韻が響いてきますね。そこが見事です。

一般の部B大賞 (40歳以上)

ゆるし方を忘れた午後の冬木立

東京都 下山 桃子 40歳

いつまでも意地をはってしまい、自分自身にも腹が立つ、そんな日の孤独感と冬木立を重ね合わせました。

「ゆるし方を忘れた」とは、なにをゆるすのかわかりませんが、身近な誰かに怒りを覚えることがあって、これだけはもうゆるせないと思い込んでいる状態なのでしょう。そんな「午後の冬木立」は、寒々として、まわりもがらんとした感じで静まり返っています。おそらく朝からの怒りはまだ続いているのでしょうが、どこかに「ゆるし方を忘れた」ことへの軽い後悔が兆し始めているようです。冬木立の印象を心の表情のように捉えたところが素晴らしいですね。

英語俳句の部大賞

from a small window
small small world
my first flight 訳/ 小さな窓から小さな小さな世界初めての空の旅

静岡県 大津 友美 17歳

カナダへ行った時の初めてのフライトで、飛行機が雲より高く飛び、小さな窓から海や大陸が見えた時、世界は広くて大きいという概念が消えて、世界がとてもちっぽけで身近なものに感じました。私にとって衝撃的だったその一瞬をこの句で表現しました。

初めて体験するフライトは誰でもどきどきし、高空からどんな世界が見られるか、かたずを呑むことでしょう。ところが実際は、小さな窓からごく限られた世界をのぞいただけでした。その心のたかぶりと、当てはずれの意外感が率直、端的に表されて共感をよびます。“small”を3度くり返し、語頭にF音を重ねたリズムのよい英語に、気持ちがこもっています。

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