過去の受賞作品

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伊藤園 お~いお茶新俳句大賞

文部科学大臣賞

風薫るこの町出ればさぁ大人

宮崎県 元日田 唯 18歳

生まれ育った小林市や学校のあったえびの市も自然が溢れていて大好きだったのですが、高校卒業後、就職のために、親元を離れることを決心しました。この句は、小さな頃から育ってきた、居心地のよい親元から離れて、精神的にも一人立ちして行こうと決心した時の気持ちを込めてつくりました。

学業もひと区切りついたし、出郷すればもう一人前の大人として扱われることになる。その心のはずみを「さぁ大人」と表現した。昔のように名を成すとか仕事で成功するとか、大それた野望があるわけではないが、一人前の大人として扱われることになるので、それなりの自覚は持っているつもりだ。あたかも薫風の季節、一人前の人間として胸を張って生きてゆきたい。具体的な目標はまだ提示できないが、自覚と意気ごみはよくわかり共鳴できる。

小学生の部大賞 (幼児含む)

ストーブをつけたら教室汽車になる

埼玉県 飯島 千尋 10歳

学校のストーブをつけると、音とにおいが汽車に似ていると思いました。教室のみんなが汽車に乗っているみたいで楽しいなと思い作りました。

蒸気機関車の釜炊きではないが、ストーブに点火したら、教室全体が景気よく動き出しそうな感じで活気が出る。汽笛を鳴らし、目的地へ向かって、教室ぐるみ、汽車となって走り出すのだ。一蓮托生でもあるが、教室ぐるみ、そこに収まっていないで「汽車になる」というアクションを伴った展開となるところ活気が感じられる。話し合うだけでなく、行動力を伴う展開となるのだ。ストーブ列車のイメージも、前提となっているだろう。

中学生の部大賞

ゆっくりな時間の流れ毛糸編む

神奈川県 八尋 優衣 13歳

祖母がいつも、毛糸でマフラーや手袋を作ってくれました。それを思い出し、俳句を作りました。「ゆっくりな時間の流れ」という言葉に、ゆっくりと丁寧に最後まで、という意味を込めました。

毛糸を編む作業は、指の動きそのものは格別ゆっくりというわけはないのだが、編みあげるまでには時間がかかるので、仕事の進捗状態はゆっくりということになる。その間、気持ちにむらがあったり、心の向け方が変ったりせず、女性特有の耐久的なあり方で、毛糸を身につける相手のことを必然的に思いながら編むことになろう。その相手がどうでもよい人である筈はない。「ゆっくりな時間の流れ」には、そういう意味があるといえよう。

高校生の部大賞

炎昼のビブラフォーンの青い風

秋田県 宮腰 拓 16歳

中学時代、吹奏楽部で同じパートの人がビブラフォーンという楽器(鉄琴の一種)を担当していました。夏の暑い中での練習中、ビブラフォーンの涼やかな音が夏の暑さと対照的だったことを句にしました。

電気装置で音を長く強く響かせる鉄琴がビブラフォーンなので、雲一つない青空が背景となって「青い風」がいかにも真昼の暑さを強調する。空間の広がりと「青」という色彩感覚の横溢が、炎昼のたたずまいを表現している。鳴りひびく音が炎昼の青い空間を、さながら感じさせるのだ。音と視覚のイメージが炎昼と音で満たされた空間を表現している。しかし「青い風」のイメージは色感覚としてすばらしい。暑苦しいだけではない。

一般の部A大賞 (40歳未満)

よく笑う我去りて父母雪深し

東京都 久保 沙織 25歳

北国の実家に帰ると、両親がとても歓迎してくれて、共によく笑い、楽しい時間を過ごします。実家から東京へ戻る際には、両親は雪の中を駅まで見送りに来てくれます。外の雪深くしんとした光景と、あたたかな家で家族で笑い合っている光景が対照的でそれを句にしました。

静かな老父母の余生、そこへよく笑う作者が加わると、座がとたんに華やかになるのだ。老後にそういう華やぎがあるのも悪くはないのではないか。ともあれ、老父母も屈託なく笑ってくれる。作者が去ったあとのさびしさは、それはそれで静かな老夫婦のしんみりした世界だろうが、一面火の消えたようなさびしい日常となることは予想できる。楽しく笑い興じてくれた老父母にとって、雪の深さをしみじみ思わせる二人の世界となるわけだ。

一般の部B大賞 (40歳以上)

木の実降る祖父にひとつの冒険談

埼玉県 松本 良子 58歳

「木の実」という季語からイメージを膨らませ、96歳の父をモデルにし、父の若い頃や、それを孫に語る様子を想像して作った句です。

見るからに温厚な祖父に若い頃こんな冒険談があろうとは思ってもみなかった。それだけに、ただ一つのその冒険談は実に感銘が深い話だったが、それも人生の平坦ならざる味わいの深さといえようか。予想もできない冒険談だが、今にして思えば祖父の生涯の彩りとなっているといえようか。祖父らしからぬ冒険談なのだが、それも今となっては忘れ難い貴重な思い出といえるのではあるまいか。よい方に結果がなったことも今は有難い話だ。

英語俳句の部大賞

no more than
half itself
the magpie in snow 訳/ やっと半身が雪の中から鵲(かささぎ)

イギリス David Cobb 83歳

鵲(かささぎ)はカラス科のわりと大きな鳥で、北九州の一部にのみ棲むが、欧米各地の農耕地ではよく見かける。体は光沢のある黒と白の取り合わせ。餌の昆虫や小動物をあさるのが難しい冬場、半身を雪に没して黒だけが目立つ。厳しい環境を懸命に生きるタフな鳥の姿に打たれる。簡明に、印象強く詠まれた。

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