過去の受賞作品

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  • 過去の受賞作品 第十八回 

伊藤園 お~いお茶新俳句大賞

文部科学大臣奨励賞

昼寝して鳥獣戯画の中にをり

神奈川県 三好 美樹 61歳

鳥獣戯画との出会いは中学2年の歴史の教科書でした。初めて見た鳥獣戯画が自分にとっては浮き上がるような立体的な絵に映ったと記憶しています。10年ほど前、秋もみじを見に京都の高山寺で鳥獣戯画を見ましたが、自分は“戯画”といっていますが悲しみが描かれていると思っています。

高山寺に鳥羽僧正作と伝えられる「鳥獣戯画」絵巻があるが、戯画とはいってもみごとな筆づかいで、第一巻には蛙、兎、猿などが登場し、相撲をとったり、投げ飛ばしたりしているさまが、人間もどきで面白い。昼寝の夢に、全巻白描のこれらの場面が出てくるような趣の詠み方が優れている。夢だから、少し現実離れもできるので、絵空事といっても、しぐさが人間と似ているだけに楽しく、充分に技巧を凝らした作品だ。

小学生の部大賞 (幼児含む)

太陽に似てる妹つゆ明ける

愛媛県 島崎 唯 12歳

いつもよく笑っている妹は太陽みたいです。私が落ちこんでいる時も暗い気分を吹き飛ばしてくれます。そんな太陽みたいな妹の笑顔を見て俳句にしてみました。

あかるく、丸顔の妹なのだろう。「太陽に似てる」という例え方が、全体の印象を、恐らく的確に掴んでいるといえそうだ。自分の妹だから、ほめっぱなしのつもりではなかろうが、その顔や動作を見ると、梅雨明けのような、からりと明るい印象なのだろう。現実にも梅雨が明けたのだが、その気分がぴったりでもあろう。「太陽のような」でなく、「似てる」と表現したところに、身内らしく少し控えめな印象が出ている。

中学生の部大賞

万緑の中にとけこむ青蛙

福岡県 山口 直人 15歳

緑が生い茂っている中に青蛙がとけこんでいて、ぱっと見分からない。大自然に比べたら生き物はちっぽけなものだと思います。夏のイメージをもってもらえたらいいなと思いこの俳句をつくりました。

「万緑」は昔からある季語でなく、中村草田男の「万緑の中や吾子の歯生えそむる」の句から始まった。その緑一色の景の中に、とけこむ青蛙を読んだもの。とけこむといっても、全くの同色ということでなく、緑の色は微妙に違うが、不調和ではないところに着眼して詠んでいる。それは「万緑」という季語そのものに、全部が同色の緑でなく「万」という表現で、それぞれの緑を認めているからといえよう。

高校生の部大賞

石投げて月がちぎれる水鏡

埼玉県 宮地 里枝 17歳

私は月が好きなので、月を使って綺麗なイメージの俳句を作ろうと思いました。湖に月が映っていて、そこに石を投げると水面が割れてこま切れになる様子を思い浮かべながら俳句を作りました。

「水鏡」とは、水面が鏡の働きをして光を反射したり、ものの影を写したりすることをいう。「月がちぎれる」とあるから、水の面に映った月が、石を投げて起こした月光の乱れから、ちぎれたように見えたということだろう。巧く月の影に石がぶつかった場面もあろうが、中心の月面自体に当たらなくても、月光が乱れたことを、このように強調することもあるだろう。「水鏡」を巧く使いこなしている。

一般の部A大賞 (40歳未満)

改札をくぐって手を振る夏の終わり

神奈川県 尾崎 仁美 19歳

地方に行っている友人が夏休みに地元に戻ってきました。夏が終わり、その友人が地方に帰っていくときの寂しさ、お互いに手を振りあいながら見送ったときのことを俳句にしてみました。

夏の終わりのさびしさを、日常的なちょっとした行動をとらえて、軽いタッチで描いている。無論、手を振っての別れに深刻さはないのだが、季節の別れと重なるので、それなりに心に留まる思いではあろう。「改札をくぐって」という情景描写が、洗練されていて巧い。それによって当事者の心の動きも、さりげなく描けている。若い人同士の雰囲気もよく伝わってくる。

一般の部B大賞 (40歳以上)

寒鯉の寄り添っている深みかな

長野県 曽根原 幸人 65歳

池をのぞいたときに、いつもより深い場所で寄り添うように鯉が群れていました。氷の下で動かない鯉を見て、寒に耐えているたくましさと生命力の強さを感じとりました。

やや地味ながら、年齢による作品の深さが感じられる。寒鯉といわれる冬の時期の鯉は、じっと水底に沈んで、みじろがぬことが多い。寄り添って沈んでいる鯉は、人間でいえばさながら老夫婦というような具合だが、無理にそう考えなくても良い。たまたま二匹の鯉が、寄り添っている光景である。「深み」というから、あまり明るい光も届くまい。だが、ぬくもりを感じる景である。

英語俳句の部大賞

holiday pebble
whiter on the beach
than back at home 訳/ 行楽地の小石持ち帰ってみると浜ではずっと白かった

スイス Vigar Andrew 41歳

休暇先の浜辺で見つけた白く輝く小石。水の作用で滑らかに磨滅し、形も良い。記念に持ち帰って見ると、拾った時の輝きは失せ、平凡な石くれだ。狐に騙されたような、がっかりした経験は誰にも思い当たろう。人の心理を鋭くついて、おかしくもある句。和訳と違って原句の英語は、省略のよく効いた、リズミカルな表現で素晴らしい。

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