過去の受賞作品

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  • 過去の受賞作品 第二十八回 

伊藤園 お~いお茶新俳句大賞

文部科学大臣賞

水筒を垂直にして飲んだ夏

東京都 宮下 青生 14歳

サマーキャンプで飲み物を忘れた友だちに水筒を貸した。すると彼女はよほど喉が渇いていたのか水筒を垂直にしてゴクゴクと飲んだ。「え!そんなに飲むの?」と少々焦ったときの光景を俳句にしました。

暑い盛りの夏の一日。かなり遠くまで遠足に出かけたのです。やっとの思いで目的地に着いた頃は、水筒の水も残り少なくなっていました。それでも喉の渇きを癒すために、水筒を垂直に立てて、残りの水を全部飲まずにはいられませんでした。その時、もうこんな目にあうのは絶対にご免だと思ったものですが、時が経つと不思議に、そんな思い出が一番懐かしく、あの時の頑張りが今の自分の支えになっているような気がしています。

小学生の部大賞 (幼児含む)

プールあと体が地球にへばりつく

東京都 澤田 啓汰 9歳

とても暑い日にザバーンとプールの中にとびこんで、たくさん遊んだ後、プールから出る。すると急に体が重くなる。そして、ね転がって目をつぶると冷えていた体が温められて地面にすいついていく。あれが最高に気持ちいいんだ!と思いながら作りました。

プールで精一杯泳いだ後、もう全身綿のように疲れて、なんとかプールサイドに上がったものの、そのまま地面に倒れこんでしまう。両手両足を大の字に伸ばし、うつ伏せのまま、地面にしがみつくようにして、しばらく息を弾ませています。さて、体を立ち上げようとしても、体がいうことを聞きません。なんだか体は、地球にへばりついてしまったような気がしてくるのです。

中学生の部大賞

夏帽子深くかぶって地面蹴る

愛知県 日浦 舞音 14歳

夏休みの昼ごろ、家の近くで散歩していたら、一人の男の子が走っていました。その男の子の顔は帽子で隠れてあまり見えませんでしたが、両手でしっかり持ったプールバッグと全力で走る姿を見て、その男の子のはしゃいでいる顔を思い浮かべて、この句を作りました。

夏休みの一日でしょうか。友達との間で、何か気まずいことがあったのかもしれません。そのことを、いつまでもくよくよと思い悩んでいるようです。でもそんな自分の姿を、人前に見せたくはありません。かぶっている夏帽子で顔をかくすように深くかぶり直して、地面を強く蹴って走っています。友達とのいさかいにはいささかの悔いと、自己嫌悪の思いが混じっているようです。まこと青春時代は、胸に棘さすことばかりですね。そんな印象を受けました。

高校生の部大賞

今日も鍋だまって食べる平和主義

福岡県 柴田 さくら 18歳

夕食が昨日も今日も鍋だけど、「母がせっかく作ってくれたのだから」と感謝しながら、文句も言わずに食べるという気持ちを俳句にしました。

学校の寮にでも暮しているのかもしれません。団体生活だと鍋料理がもっとも無難で、安上がりな上に結構味も悪くない。それでも毎日となると、さすがに飽きてきます。なんとかならないかと文句のひとつも付けたくなってきています。だが、それを言ってはおしまいですから、そこは我慢して平和主義で行きましょうと、自分に言い聞かせています。もしかしたら家庭でも一緒かもしれませんね。「今日も鍋、明日も鍋」とでも歌いましょうか、の気持ち。

一般の部A大賞 (40歳未満)

手長猿秋天ひょいと掴みとる

大阪府 鎌田 亜也子 37歳

去年の秋、京都の動物園に子供たちを連れて行った秋晴れの日、いろいろな猿がいましたが、手長猿が檻の中狭しと長い手を動かしているのを見た。子供と同じ目線でみると、猿と空しか見えず、猿が秋の空を掴みとったように見えたことを作品にしました。

手長猿は、その長い猿臂をのばして、自分の欲しいものを、わけもなくつかみ取ります。ある秋の日。手長猿は、透明に晴れ渡った秋天に、じつと見入っていました。大分秋天が気に入ったようです。そうなるといつもの癖で、長い手で、その秋天をひょいとつかみ取ろうとします。もちろん、空を切るばかりなのですが、手長猿にしてみれば、なんだなんにもないじゃないかと嘯いているのかも知れません。その表情が見えるようです。

一般の部B大賞 (40歳以上)

汐干狩家族平行四辺形

愛知県 水野 大雅 42歳

家族連れで賑わう汐干狩は、家族の様子が自然と出てきます。この句は、四人家族の位置を点として見ると、平行四辺形になっていたことを父である私が発見した句です。家族がばらばらに、夫婦・親子関係が平行線のままになっていると見えるかもしれませんが、平行四辺形だけに、どこかでバランスが取れているのかもしれません。

好天の春の一日。汐干狩に、家族揃って出かけました。遠浅の浜辺で、思い思いに散らばっているのですが、ふと気がつくと、いつも家族は、お互いが見えそうな場所で、それぞれ浅利や蛤などを採っています。すこしいびつな平行四辺形の範囲の中で、時々移動しながら動いているのです。別に事前に打ち合わせたわけでもないのに、本能的な血の絆が、そんな行動を自然にとらせたのかも知れません。着眼が面白いです。

英語俳句の部大賞

freshly mown grass
clinging to my shoes
my muddled thoughts 訳/ 刈りたての芝生が靴にくっつくまとまらない私の考え

イギリス Gracie Starkey 13歳

日本語学習の時間に英国人の俳人の方が来られ、ワークショップを開催しました。俳句のテーマを探すために皆で外に行き校庭を散策することになりました。俳句づくりは初めてで、どんなことを書いてよいかも分からず、どうしようかと友だちと話しながら芝生を歩いていた時、ちょうど靴に芝が付いていたので、そんな状況を俳句にしました。

とても斬新で鮮やかな句です。通り雨が降ったあとに、刈られたばかりの芝生の上を歩くと、芝が靴底に貼りついてくる。一本一本微妙に異なる緑色をした芝は、靴底でランダムなパターンを描く。芝生の上を歩きながら人生の出来事について考えていた作者は、ふと、靴底のパターンに気づき、それが自分の複雑な考えを反映しているように思えてくる。“muddled thoughts”(まとまらない私の考え)という表現はとりわけ巧みです。

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