過去の受賞作品

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  • 過去の受賞作品 第六回 大賞

伊藤園 お~いお茶新俳句大賞

文部大臣賞

父の背を越して十五の春一番

神奈川県 佐々木 祥一郎 15歳

中学三年の後半から急に背が伸び始めました。あと三センチで父を追い越します。六年前母がなくなりましたが、以来男二人での生活です。父は左足が不自由ですが、仕事と家事で僕を一生懸命支えてくれて、言わば僕の大きくて優しい応援団長です。この句は、いつか母の分まで父を背負える自分になろうという気持ちで、中学卒業を前に心に刻んだ、父へのメッセージです。

父より背が高くなったといわれると、子どもは何となく気はずかしくくすぐったいものです。同時に、これからは父と男どうしの付き合いができるという気分になるものです。春一番と呼ばれる春先の強い南風を全身に受けて立っている十五歳の少年の気負いがひしひしを伝わってきます。春一番が、実際に少年と向き合う父の背越しに吹いて来るような爽やかさを感じさせます。

小学生の部大賞 (幼児含む)

寒い朝ゴジラの気分でいきを出す

富山県 八田 寛紀 9歳

朝、学校に行くとき、とっても寒くって、息が白くボーッと出るので、ゴジラみたいだなと思いました。怪獣みたいに大きくて、強くなったみたいで、面白くって何度もはーっはーっとはき出しました。ゴジラは前にテレビで見ました。

よほど寒い朝だったのでしょう。登校の生徒が思わず身をすくめ坂道を、元気な作者は、きっと胸を張って登ったに違いありません。はく息が白い。ゆっくり歩くとゴジラが大股でのし歩くよう。作者はすっかりその気分になって胸いっぱい吸った息を思い切りはき出したのでしょう

中学生の部大賞

りんごかむ口いっぱいに大音響

北海道 乾 正一郎 13歳

僕はちいさい頃からりんごが大好きで、大きな口を開けてシャリシャリと食べるんです。その音と一緒に、りんごの味が口いっぱいに広がっていく感じを書きました。塾の先生にすすめられて応募したのですが、受賞したことを聞いたらきっとびっくりしますよ。

もぎたてのりんごに歯をあて、サックリと噛みしめる。引き締まった冷たい果肉が噛み砕かれる音と同時に、口いっぱい広がってゆく甘ずっぱい香りと果汁。その何もかもが作者にとっては、まるで口中で大音響がはじけたような素晴らしく新鮮な感動だったに違いありません。

高校生の部大賞

指さきで読む英単語雪予感

栃木県 松本 理夫 16歳

英単語帳を指でたどりながら読んでいたのですが、その指先がじーんとするくらい寒くて、「これは初雪になるな」と思ったんです。母が俳句をやっているので、その影響で僕もよく作るのですが、こんな大きな賞をもらえてびっくりしています。きっと半分は母の手柄ですよ。

北風が冷たく吹きさすさぶ冬は受験の季節である。生徒たちは皆、勉強に余念がない。かじかんだ指先で単語をなぞりながら熱心に英語を読んでいる。切れるようなこの痛さ。もうすぐ雪になることを指先はちゃんと感じていたるのだ。生徒はちらっと窓外に目をやり、すぐまた元に戻します。

大学生・専門学校生の部大賞

橋脚の倒れた街の冬銀河

愛知県 平尾 ひみ子 21歳

阪神大震災のニュースをテレビで見入っていたら、最後に静かな星空を写し出しました。それを見た途端、何故かとても寂しくなってしまったんです。この作品はその時作ったものです。俳句は好きで、時々作っては少しずつノートに書き溜めています。

耐震設計で安全堅牢だったはずの橋脚が無残にもついえ、瓦礫とかした夜の街から眺めた冬の銀河。その悠遠の星空を仰いでいると、人知にたよる人間のおごりについて誰もが深く自省しないではいられない。そして人は、その謙虚さの中からまた新しい闘志を燃え立たせてゆくのだろう。

一般の部A大賞 (65歳未満)

母ひとり遅れて笑ふ夜の秋

神奈川県 小林 美代子 57歳

八十四歳になる母は自宅で寝たきりなのですが、皆が笑っていると意味がわからなくても楽しそうにしています。母が生きているという幸せと、わからなくなってしまっているという寂しさとで、とてもつらい気持ちになります。

一家団欒のひととき、どっと湧く家族の中でちょっと間のあく母の笑い声。皆はそれがおかしいとまた笑う。気配りの確かな、しっかりもので通った母だったのにと、ふと悲しくなる。でも、それがいい老い方なのかもしれないと作者は考える。秋の気配の濃い夜の一コマ。

一般の部B大賞 (65歳以上)

行けば行くところに記紀の梅真白

宮崎県 吉田 亜司 79歳

宮崎は古墳群がたくさんんございまして、そこが公園になっているんです。そして必ず梅の林がございまして、どこも真っ白に咲きほころんでおりました。その白さがいつまでも心に焼き付いておりまして、この句ができたわけです。それにしても大賞と聞いて驚いております。

万葉に数多く詠まれた梅も、古事記、日本書紀の古墳時代に咲いていたかどうかは定かでない。行く先々に咲きほこる真白の梅の花に出会って、しばしの忘我の心境だったのだろう。それは作者にとって記紀の世界であり、その断定と輝くばかりの白の印象は読者に同じ印象を抱かせる。

英語俳句の部大賞

Graceful is the deer,
who roams abaut his kingdom
quiet as the snow 訳/ 優美な鹿 その王国を雪のような静かさで 歩きまわる

アメリカ Justin Ryan Gammons 10歳

今回の大賞はアメリカの10歳の少年の作品です。英語俳句は、私とピーターセンさんと2人で審査しているんですが、この句を選ぶにあたっては、二人の意見がぴったり一致しました。句意のとおり丹誠で実に美い作品です。(竹下流彩)

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