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受賞作品

伊藤園 お~いお茶新俳句大賞

文部科学大臣賞

猫の載るヘルスメーター文化の日

長崎県 田中 龍太 27歳

5kgくらいある太り気味の茶トラのオス猫を飼っていたのですが、ある日鼻水や目やにが出ていて熱もあったので、病院に連れて行きました。診察台兼体重計に載せられ先生に診てもらっている猫の様を見て、俳句にしようと思いを巡らせていました。また文化というものは、精神的にもゆとりや余裕が無いと生まれてこないものだなと考えている中で、猫のふくよかで恰幅の良い体を見ていて、余分なものだけど豊かなもの、という意味では文化的なものであるように感じ、日が近かったこともあり、「文化の日」という言葉を繋げました。

 我が家で、ヘルスメーターの結果を一番気にしているのはお母さんかもしれません。近頃メタボ腹の気になるお父さんや育ち盛りの子供たちのことなど、いろいろ考えて料理を工夫しなければならないからです。そんな話題の夕食時、ふと見ると、猫のタマまでちゃっかりヘルスメーターに載っかってるじゃありませんか。この句の新鮮さは、猫自らヘルスメーターに載ったことと、あえて体重計でなくヘルスメーターとカタカナ表記して、文化の日のイメージを浮かび上がらせた点にあるのでしょう。しかもその言葉の軽快なリズムが、若々しい文化の体感を捉えています。そこに作者独自の表現の工夫が見えているといえそうです。(日本語俳句選評 安西 篤)

金子兜太賞

今ここで蒲公英になれ種になれ

神奈川県 松本 大夢 15歳

高校生である自分はいろいろな事を楽しみたいと考えています。蒲公英は、咲いた後に綿毛を飛ばし、また別のところで花を咲かせるので、その姿がいろいろな所でいろいろな事を楽しみたいと考えている自分と重なると思い、そのことをこの俳句で表現しました。

 金子兜太先生がいつも強調しておられたのは「自己表現」、自分のありのままをさらけだして書くことと、俳句としての切れでした。この句は中七でいったん切れ、下五でさらに強く切れて一句全体を響かせます。「なれ」という呼びかけを二度重ねて、これから飛び立とうする蒲公英に作者自身が呼びかけ、「今ここで」の出発の勢いをつけようとします。自分の思いを真っ向からぶっつけていく句の勢いと、この二度重ねる切れのリズムが、金子兜太賞にふさわしいダイナミズムだと思いました。

小学生の部大賞 (幼児含む)

たんぽぽがおそれ知らずに旅に出る

熊本県 原田 悠生 11歳

たんぽぽが、自分の子孫を残すために綿毛で種を飛ばすことを知りました。風に身を任せて飛んで行くなんて、とても怖くて不安だと思うし、仲間を増やすために、見知らぬ地に飛んでいくのが旅のようだと思い、この俳句を作りました。

 さあそこでといわんばかりに、たんぽぽが旅に出るわけです。まるで実社会に踏み出した新人社員か入学したばかりの新入生のようですね。もちろん内心の緊張はあるのでしょうが、なんとなく頼もしげにもみえて来ます。「おそれ知らずに」には、風に乗ってまっすぐに空へむかって飛んでいくいさぎよさがあります。なんの疑いもためらいもなく、ひたすら自分を信じ、人々を信じ、世界を信じているような天真爛漫さが、おそれを知らぬ強みになっているのかも知れません。思わず「よい旅を」と声をかけたくなりますね。

中学生の部大賞

十五夜に飛ぶ蝙蝠よ眩しいか

新潟県 田村 煌 14歳

秋の十五夜の澄みきった空には満月が明るく輝いています。そんな空を飛ぶ一匹の蝙蝠はどんなことを想っているのか、人と同じように眩しいほど満月がきれいに輝いていると想っているのか、月のきれいさと蝙蝠の不思議さについて詠みました。

満月の十五夜の中へ、突然蝙蝠が飛び出して来ました。蝙蝠にしてみると、思いがけなく場違いなところへ飛び出してしまったのかもしれません。まるで新人さんが、ライムライトの当たる晴れ舞台に飛び出してしまったような感じで、蝙蝠自体が一番驚いているのです。「眩しいか」は作者の見立てですが、蝙蝠の羽ばたきが羽で眼を覆っているようにも見えて来ますね。

高校生の部大賞

駅を出て街のかけらとなってゆく

岐阜県 西田 歩未 18歳

駅の改札を抜けて、思い思いの道を急ぐ人々。作業的に街に溶け込んでいく感じがどこか無機質で、少し寂しいと思いました。でも一人ひとりに目を向けてみれば、それぞれに人生の物語がある。電車通学が始まった今、改札を抜けた先があんなにキラキラしている理由がなんとなく分かる気がします。

電車を降りた乗客の群れが、駅を出て一斉に散ってゆく様子を「街のかけら」と捉えたのでしょう。群衆の塊りが、かけらのように崩れてゆく流れが見え、人々それぞれの暮らしの中へもどってゆく感じが伝わってきます。かけらはそれぞれの家路を辿ってゆくのです

一般の部A大賞 (40歳未満)

終電の吊り革引けば流れ星

東京都 黒岩 徳将 28歳

残業が大変だったとき、終電の吊り革を強く引いた瞬間に流れ星が見えて救われた気分になったことがありました。地方で勤務していた時の思い出を残しておきたくて、この俳句を作りました。

終電ですから、乗客は疲れや眠さをかなり感じている状態でしょう。電車の揺れに身をまかせていて、大きく揺れた途端、両手で掴んだ吊り革に思わずすがりついたのです。そのとき、窓の外を流れ星がさっと走ってゆきました。なぜか体のなかにも、何かが流れて行ったような気がします。瞬間的に、ああお疲れさんとでも言われたような気がしたのかもしれません。

一般の部B大賞 (40歳以上)

まんぼうの口のくらがり雪降りぬ

秋田県 今田 保雄 84歳

冬の港に揚がったマンボウを見て、雪のロマンと愛を込めて表現しました。変わった形の珍しい魚として知られていますが、異様であるが故のいのちに深い哀情を感じました。

まんぼうの大きな体は銀白色で、海の中へ溶け込んでゆくような感じがしますね。ちょうど海には雪が降り続いていて、その寒さの中をまんぼうの大きな口が、うつすらとくらがりを作っているように見えました。雪はそのまんぼうの大きな口のくらがりのなかを、いつまでも霏々と降ってゆくようです。北国の冬の海が生なましく感じられますね。

英語俳句の部大賞

Cool river
A fish jumps
Another fish jumps 訳/ 涼やかな川魚が跳ねるもう1つ跳ねる

東京都 清水 雄二朗 14歳

ある暑い日、家族と川へキャンプに行きました。跳びはねる魚を見て「魚もつめたい川が気持ち良いのかな」と和やかな気持ちになった思い出を俳句にしました。

暑い日だ。作者は川を見つめている。川風がそよそよ吹けば、いくらか涼しい。流れに近寄って指を浸してみると、ひんやりしている。川は大きい存在だし観察の対象なので、定冠詞のtheも不定冠詞のaもつけないほうがいい。ないほうが広がる印象だ。少しすると魚が水面を割って現れる。羽化途中の虫を狙ったのか。そのうちもう一匹、はねて現れる。この句はシンプルに景色を描いているようで、実は雄大ともいえる時間の流れと川の流れを含んでいる。そのつぎのfishの登場、またつぎのfishの登場までも伝わるのだ。(英語俳句選評 アーサー・ビナード 日本語訳 星野 恒彦)

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