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受賞作品

伊藤園 お~いお茶新俳句大賞

文部科学大臣賞

獅子舞の口へ太平洋の風

大阪府 田島 もり 83歳

志摩安乗神社の「しめ切り神事」の獅子舞は、とてものんびりとユーモラスです。獅子が大口を開けると、太平洋からピューッと吹いた風が流れ込み、胴ぶるいをするのです。その情景を詠みました。

獅子舞が獅子頭を脱いで太平洋の彼方を見つめています。一仕事終えて一息ついているところかもしれません。獅子頭は口を開けたまま風に吹かれているのでしょう。まるで獅子が太平洋の風をうまそうに吸っているかのように、英気を養っているところです。壮大な風景に、地球規模のエネルギーが押し寄せているような力強さが感じられます。獅子の目玉が、次第に輝きを帯びてくるようにも見えてきますね。(日本語俳句選評  安西 篤)

小学生の部大賞 (幼児含む)

午後三時はちみつ色の犬眠る

東京都 伊賀 風香 12歳

私は6歳の茶色いキャバリアという種類の犬を飼っています。 うちの犬はお昼寝が大好きです。その日は午後窓のそばでお昼寝をしていましたが、暖かくてリビングに日が射していたので、茶色の長い毛がふわふわと、はちみつ色に見えました。隣でお昼寝をしたかったけれど、起こしてしまいそうなのでやめました。その時のことを俳句にしました。

午後三時といえばおやつの時間です。学校から帰ってきたばかり。ちょうどお腹も空いてきて、甘いものが無性に欲しくなって来たところです。自宅の庭に暖かい陽射しがふりそそぎ、そこで愛犬が昼寝をきめこんでいます。庭全体がとろ~としたはちみつ色に見えてきて、甘い香りが匂い立つようです。お腹がかすかにクウ~と鳴いたような気がしました。思わず、「お母さん」と呼んで、おやつの催促をしたくなった、そんな昼下り。

中学生の部大賞

この川の名前も知らずさけ上る

東京都 近藤 之武 13歳

テレビで、鮭が必ず生まれた川に産卵のために遡上することを紹介していました。その番組を見て、鮭が川を上る時、自分の故郷の川であるのに、その川の名前を知らないのだと思ったことを詠みました。

鮭は、川で生れて海へ行き、数年後成長してから、秋に川に戻ってきて産卵し、その一生を終えます。それは鮭の本能的な行動で、鮭にとって故郷の川とはいえ、その名前すら知りません。ここでわざわざ「この川の名前も知らず」というのは、人間からみてはかない一生を、哀れとも思うからでしょう。黙々と生き、黙々と使命を果たして死んでゆく鮭を、むしろ潔いとみたからかもしれません。

高校生の部大賞

年を越すわけのわからぬ達成感

東京都 田坂 岳 16歳

一年間、小さなことを積み重ねてきた頑張りを大晦日に振り返ります。大したことはしていないけれど、年を越すと同時に何かをやり遂げたような充実した気持ちになることを、そのまま俳句に表現しました。

旧年から年を越えて新しい年に移るとき、どうやら今年も無事に終わったなあという感じになりますね。とはいえ、この一年何をやったのかとなると曖昧で、はっきりとはいえません。作者はまだ十六歳ですからなおさらのことでしょう。でもなんとなく「やったあ」という達成感だけはあって、その感じを「わけのわからぬ」と云ってみたのでしょう。そしていつの間にか年を取る。作者にはまだ遠い境涯感かもしれませんが。

一般の部A大賞 (40歳未満)

聖なる夜息子に一つ嘘をつく

北海道 本間 一徳 34歳

クリスマスの日に息子に対し「いい子にしてたらサンタクロースがプレゼントをくれるよ」と、小さな嘘をついた時に感じたことを詠みました。

この場合の「聖なる夜」とは、クリスマスイヴのこと。聖母マリアがヨセフと結婚する前に、聖霊によって身ごもったことが明らかになった時とも言われています。俗世界ではあり得ないことが出来ちゃったわけですから、そんなときには、日頃息子に正直であれと説教していても、一つぐらい嘘をついても許されようと思う。隠しておきたい父親の秘密があるのでしょう。

一般の部B大賞 (40歳以上)

梟よ星のない夜は退屈か

埼玉県 茂原 朱美 68歳

星空鑑賞会があるという宿に二泊したことがあります。余程行いの悪い者がいたのか、雨嵐というほどの悪天候ではなかったのですが、二晩とも鑑賞会はありませんでした。そんなやることの無くなった夜に、さて森の中の梟は何を思うのかと考えました。梟の大きな目玉、鋭い嘴、余情を湛えた声を思うと、餌を取るだけでは夜は長過ぎるだろうと感じたことを詠みました。

梟は夜行性で夜目が利きますから、昼間は眠っていても夜は活発に動いて、野鼠や小鳥、虫などを捕らえます。だから星のない夜などは、かえって絶好の稼ぎ時のはずです。そんな或る夜、梟独特の鳴き声が聞こえてきました。あの「五郎助奉公、ぼろ着て奉公」と聞きなされている陰気な声です。その時、ひょっとして梟は退屈なのかなと思ったのでしょう。そこには作者自身の屈託のようなものがあったのかもしれません。

英語俳句の部大賞

I suddenly noticed
I'm able to touch
the high shelf 訳/ とつぜん気がつくあの高い棚に手がとどくんだ

大阪府 堀之内 一棋 15歳

以前は手が届かなかった場所に、ある日届くようになり、とてもうれしかったので、その気持ちを俳句に詠みました。

伸び盛りの少年を生き生きと、具体的に実感させる句。衣服や靴が寸足らずで体に合わなくなるのは、誰でも気づき、平凡なことです。だが、踏み台の必要だった高い棚に、ある日手が届いたのは、本人の驚きと喜びが伴う発見です。誇らし気に物を取る様子も目に浮かび、若々しい希望に満ちています。 英米人なら違うスタイルの英語になるかもしれませんが、いかにも日本人が真面目に勉強している英語表現で、好感がもてます。(英語俳句選評&日本語訳 星野 恒彦)

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