伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第二十七回
審査員賞
みのむしが風にゆれてるメトロノーム
デジタル式のメトロノームが普及して、針が左右に動くものは旧式になりつつありますが、この句では見事にデジタルでは描けない世界が表されています。小学生の武正さん、小さなことや古きよきものにも目を向ける姿勢をこれからも大切になさってくださいね。
やせこけた人工林から冬匂う
植樹を始めてからさほど間のない、まばらに生えた木々で、まだ葉を茂らせることもなく、やせ細った裸のままの人工林です。そんな人工林からまず冬が匂い始めるという。冬の訪れを匂いで捉える感性は、まだ見たことがありません。
川沿いの道を水母と帰宅する
海辺の町ではなく、満潮になるとほのかに海の匂いがする河口の町でこその光景でしょう。学校帰りに川沿いの道を歩く作者は、友達と別れて一人きり。流されるでもなく流れるでもなくついてくる水母は、一日の終わりの小さな安らぎの形をしています。
セミバッタコオロギトンボ苫小牧
俳句という表現には、当然とはいえ、自然環境に対する感慨も詠まれるわけですが、この句に込められている自然への感慨は大きく、おおらかで、爽やかでした。そのリズミカルに選ばれた言葉に楽しささえも感じました。
明け方の夢によく似た昼の月
白々と浮かぶ昼の月。夢の中で見た景というだけでもこころひかれるのですが、明け方の夢と言われますと共感度がぐんと高まります。天空に漂う昼の月のたたずまいをしずかな表現で言いとめています。秀吟ですね。
人間を休んで食べるセロリかな
セロリを食べているサリサリという音が聞こえてきそうな句です。食べることに夢中になっている気分が伝わってきます。人は食べるとき、単純な生物のレベルになるのかもしれないと思わせます。
佐保姫を待てる羅漢の寡黙かな
佐保姫をむくつけき羅漢が待っている。春の女神と羅漢の対応にはそんなに驚かないが、その羅漢をくどくも「寡黙」と念を押すあたりが独得。滑稽味を大いに含む。
かくしごと言ひたくて見る冬銀河
阿部博子さま、お気持ち、よーく分ります。しみじみとした気持ちになりました。もどかしい気持ち、でも冬銀河にとどめておきましょう。その方がきっと正解ですね。自分を大切にして生きていけるような気がするのです。