伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第十六回
佳作特別賞
国境の愚を笑う渡り鳥
蓬髪のアインシュタイン日向ぼこ
あやとりの梯子を貰う花の昼
獅子舞の噛んで受けとる祝儀かな
風呂蓋の猫と話して長湯せり
真白な漁夫の鉢巻五月来ぬ
今日去ると決めて燕の潔よし
秋風のなかに鍵束ざくと置き
万緑の島引き寄せて斜張橋
町内の生き字引なり生身魂
蟻穴を出て旧姓で呼ばれけり
もう一度リンゴまるごとかじりたい
地球儀を回して誘う夏の旅
お茶淹れて下座の好きな母なりし
人も来ず電話も鳴らず老ひの春
片栗の咲いて逢いたさつのる夕
日の暮れてあと一坪と春田打つ
春寒し晴れたる空に根なし雲
花みずきパン屋の前の乳母車
パソコンの画面に春を呼びだして
さっそうと歩いてみたし草萠ゆる
コーナーで影にも抜かれ運動会
老いし背に戸惑いつつも雪降るる
大の字に寝て若草に抱かるる
通勤の道変えて見る春田かな
マスクしてマスクの人を避けて居り
咳ひとつ残してとおる冬木立
僕の凧高所恐怖症かもしれぬ
余生といふ言葉好まず筍むく
夏の空ミルクを飲んだ色をして
一条の夕日を貰ひ石蕗の花
帰省する子の足音に耳澄ます
春風や迷路のような地下を出て
ふるさとを絞り染めして曼珠沙華
風薫る山のかたちの握り飯
店先に小豆の匂ふ城下町
マフラーや短き首の西郷どん
補助輪も父の手もなく春を漕ぐ
女温泉の昼の親しき落椿
休日の炬燵の中に討ち死にす
抱きつけと言われて哀し介護の湯
冬昴氷河は青く眠りたる
空探し深きところに雲光る
水中花門限のない少女いる
白銀の輝く尾根に歌ひびく
あどけなき児の歯の白き磯遊び
どやどやと戻りて開く冷蔵庫
利休忌や点前の杓の指の艶
福耳の祖母の歩巾で初詣
地の奥の鼓動に覚めし芽吹かな