伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第十六回
文部科学大臣奨励賞
プール開き太ももで水を切りひらく
小学校の高学年~中学生の頃に、学校のプール開きに対して抱いていた期待感と、泳ぐ前のわくわくしていた気持ち。夏っぽいイメージの作品を作りたいと考えていた際に、浮かんだイメージが子どもの頃の思い出でした。子どもの頃の私は、背も高いほうで、活発というよりも腕白な子どもでした。プールの授業の前に友達とふざけあって、わざとプールに落としてもらったりして、自分だけ先にプールに「ドボーン」として他人より先にプールを楽しんだりしていました。ここ10年近く泳いでいないですし、泳ぎも得意ではないのですが、またプールをザブザブと楽しみたいなぁとも思います。
小学生の頃からプール開きに期待感を持っていた。水に入って泳ぐ前のわくわくした思い出を今でも強く感じている。水やプールと遊ぶ気持ちが、小さい時からのあこがれだったし、泳ぐことよりもプールの水に馴染む気持ちが強かったのだ。中七に作者の望みが強く出ている。
小学生の部大賞 (幼児含む)
白鳥がすっと進んで透きとおる
毎年1月になると、北の方から白鳥が渡ってくる近所の湖に家族全員ででかけます。1月のとても寒い湖の湖面では、白鳥は非常に姿勢がよくて、移動も泳ぐというよりすっと進む感じです。そんな美しい姿勢でいる白鳥の周りの空気は、寒いということだけではなく、氷のように澄んでいて透きとおっているように思えました。
水のきれいな湖を白鳥が滑るように泳いでいる。水が静かなので波も立たない。それを「すっと」と表現できたのは立派だ。白鳥のいる、透きとおった波も立たない湖であれば、白鳥のきれいな白色も同じように透きとおった色で、まるで一枚の絵を見ているような感じがする。よく見ましたね。
中学生の部大賞
北風や国語の教師くしゃみする
作中にでてくる国語の教師とは、既に卒業しましたが今回私たちの新俳句応募に際して、作品のとりまとめをしてくれた袋井南中学の国語の先生です。先生は俳句好きでとても面白い国語の先生です。国語の授業で、新俳句応募するのにあたって「素朴な感じの作品を作りたいなぁ」と考えていたところ、先生が突然くしゃみをしたのをみて、「それだ!」と思って俳句にしました。
北風が吹きだした。音も強くなってくるようだ。天気予報では夜になると、もっと強くなると放送している。そういえば、北風の音もだんだん高くなってくるようだ。教室の窓も風に鳴っている感じがする。あっ!担任の先生が突然くしゃみした。友達もみんな不安そうに窓側を見つめている。
高校生の部大賞
こんな日は風がないから風になろう
17歳という年齢になり、「自分はこれからどうしたいのか、どうなりたいのか」を私なりに真剣に考えていました。その結論としては、いつも風任せで受身の姿勢ばかりではなく、良い風が吹かないときには自分から良い風を起こして、春風のように皆を心地よく、幸せにするようなそんな人になりたいという思いをこめた俳句です。
こんな日は自分では期待の持てる日のはずなんだ。なにか心に響くものがあって、楽しいことが起こりそうな日の予感がしきりにする。しかし、どうしたことか風が無くて物足りない。ようしこんな時は自分が風になって皆を振り向かせることができたら上々なのだ。そうだ、風になろう。
一般の部A大賞 (40歳未満)
焼畑の香りの布団里帰り
農業を営んでいる主人の実家は同じ市内とはいうものの、ふるさとと言った風情です。私たちが里帰りするときには義母が布団を干しておいてくれます。里帰りをした季節が秋の頃だったので籾殻で畑や土手を焼く煙の香りがついて干し上がっていました。その夜、布団に入るとほんのりと煙が香り、布団を干して待っていてくれた義母の気持ちがとても嬉しく感じられ、その匂いが私をほっとさせてくれました。
久しぶりに帰郷して、家の布団で寝たときの感覚を素直に述べている。都会生活では味わえない、ふるさとの匂いが、作者を少々感傷的にしているようだ。都会と田舎とでは生活習慣が大きく違う。それは違って当然だが、なつかしさという感覚めいたものに、いやでも故郷というものの匂いを嗅いでしまう。そこがまた故郷の良さ、なつかしさにも通うのであろう。
一般の部B大賞 (40歳以上)
茶柱をほめて当分死なない気
お茶を飲もうとして淹れたところ、88年間生きてきたなかで一番見事な茶柱にめぐりあいました。見事な茶柱をみたときに、実母が93歳まで生きたことを考えれば、一人暮らしですけれど、まだまだ当分元気で暮らせるわ」と思うとともに「長生きしてよかった」という気持ちにもなりました。
茶柱が立ったというのがつかの間の話のきっかけになり、そこから会話がほどけてゆく。ご当人は年齢以上に元気に振る舞い、冗談口で当分死なないわと笑いながらのご託宣。むろんお茶は俳句以上に日本を代表する文化の資産なのだ。
英語俳句の部大賞
seaside motel
the only window
filled with fog
訳/ 海辺のモーテルただ一つの窓が霧に満たされ
海辺のモーテルは安宿で、部屋が狭く、窓も一つあるだけ。その窓すら今霧にふさがれ、泊り客の孤独な憂え心を暗示する。だが、かつてはこの地に恋人や家族と遊んだ日があったのかも知れない。霧がはれれば、思い出の海が見え、心を明るくしてくれようか。侘しく暗いだけの句ではない点がいい。