伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第十回
秀逸
がっこうがおおきくみえるぶらんこふる
わたがしみたいにふくらんでいるさくら
かいがんにすわるとほしがあらわれる
いもうとがでんぐりがえり春がくる
冬の木は雪のスーツで立ちつくす
すみません雪のプレゼントまだですか
信号の色した落葉降ってくる
流星の流れるほうに声ひびく
雪の日は東京さえも北の国
つぼみからちょっと見えてる色が好き
自転車に先に乗ってる赤トンボ
雪の上ふしぎな足あと残そうよ
思い出も焼増しできるといいのにな
教室がとっても大きなれいぞうこ
かすみ草一人だけではかがやけぬ
忘れもの日記の中にとりにいこう
たいくつそうで私のような冬の木々
ひとつだけ別にしてある年賀状
重たくて落っこちそうな冬の月
夕焼けにやけどしそうだ鳥一羽
鉄砲百合みたいにそっぽ向かないで
猫の眼の丸い宇宙に僕が居る
ソプラノのような雪だと想う朝
初夢が見られるような干しぶとん
ざわめきがピタリとやんだ海の家
星を見るこんぺいとう見る食べてみる
冬の朝ふとんは僕の甲羅です
帰り道かれ葉も風と下校中
今日もまた空のひつじが旅をする
秋の日のオレンジ色の帰り道
きのうまでたくさんあった夏休み
土の中春がいっぱいつまってる
抱く猫の息やわらかに雪が降る
弟に姉貴と呼ばれ背のびする
ふわふわの桜のようなおばあちゃん
補習終え家あたたかし栗ごはん
肩の上小さな小さな雪が降る
合格という文字を見て鳥になる
笑っても泣いても地球は廻ってる
秋の光に背中押されて風になる
16才家族と別のクリスマス
積む悩み雪ならすぐに溶けるのに
学校の鏡のなかにふたりきり
木の枝に白い布たれ沖縄忌
ビー玉を月にすかしていのる恋
むねの中光るビー玉数しれず
何となく海を見たくて空を見る
セーターが押入れに帰る春一番
一面に広がる未来と麦畑
窓ぎわの外を見ている君がいい
蜜柑むくほのかににほふ新世紀
放課後にこっそり座った君の席
大丈夫キレイになるから泣いただけ
髪の毛を伸ばすか切るかまよう春
蝉時雨きみの言葉で遠くなる
液体と固体の間の16歳
降る雪の音聞きたくて外に出る
ふり向けば昨日の私が手をふった
失恋の食後を飾るさくらんぼ
ふうせんがふくらまないのせつなくて
空の色見てから決める今日の服
除夜の鐘聞こえぬ程の笑い声
かぜひきの窓辺に日暮れ早くきて
砂の城作りて光る薬指
冬の夜は足の先から本に沈む
ささくれができた母の手好きな手だ
サバンナで月へ届けとジャンプする
「初めて」をいっぱい持ってる春がくる
川岸にプラネタリウム蛍たち
モノクロに伸び縮みして鳥サハリンへ
暑さ過ぎ水いろの空眺めけり
未来などいらない今日は五月晴れ
コスモスの花が窓から訪ねてきた
虫カゴに思い出だけが採れました
銀河とは夜空に輝くネックレス
立春の玉子のごとく子の立てり
白髪の夕焼に染み農繁期
あかぎれの母を連れ出し旅電車
あおいみずこぼれるようなあきのそら
膝抱え我は小さな宇宙なり
大木の青葉が空を名乗りけり
先生のポケットチーフ卒業歌
逢いたくてやわらかく結う春の髪
吾が町の一両電車月と行く
さびしさはいつもあとから春の雪
車椅子少女の膝に春の蝶
道ばかり増えしふるさと月あかり
満員のバスに乗り込む花吹雪
日向ぼこというあたたかき孤独かな
被写体はすすきの中の少女かな
髪を切り少し私が好きになる
不届きな恋して落葉踏みにけり
干したシャツ手をつないでる母子家庭
参観日こんな小さな椅子だった
ペダル踏む背中に虹を感じてる
液晶の文字やさしくて冬の夜
まばたきとまばたき出遇う冬銀河
はるがすみ遠近法の海のはて
東京の桃はしずかに傷ついて
片影に風の道ある不思議かな
でこぼこのこの世なれども雪真白
少年のいつか面長ねこやなぎ
逆らわず争わず身の炎暑かな
薔薇という字にも親しみ卒業す
昼顔の薄紅色の眠さかな
風邪治り街の匂いをかぎに行く
盆が来て船着場より島ふくらむ
鰯の眼きれいに食べて戦中派
蕎麦咲いて銀河の続きかと思ふ
この冬は死んだふりして過ごそうか
からっぽの胸を焦がせし大花火
春一番絹石鹸の封を切る
どっと黄落持ち時間どっと減る
乳母車幼な児あやす蝶二匹
水打って蟻に大河をつくりけり
雑煮煮る鍋の小さくなりにけり
黙祷して起つ八月の棒となり
襲ふことなき蓑虫は襲はれず
花ふぶき僧の草鞋の新らしき
豊満に老いて春風と歩く
草もみじいい人ばかりの中にいる
お手玉を三つ四つつけば春の風
抱卵のやうにひねもす炬燵守る
春暁の夢の中でも探し物
金木犀夜は星の木になりすまし
ふきのとう売り切れて人素通りす
菜の花に染まりて母は観世音
観覧車人汲みあげる春の空
枯蔦やたぐればひしと石を抱き
放牛の尻かがやかし山笑ふ
若さとは軟かなこと新茶摘む
冬帽を農夫つるりと被りけり
楢山へ行きそびれたりきりぎりす
大声の外はみごとな雪景色
赤い空くの字くの字の渡り鳥