伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第九回
秀逸
ゆうやけがきれいになってうずくまる
おならはねからだのなかをでんしゃがとおる
トイレまでおいかけてくるお月さま
うめの花今年は早おきしたみたい
いもうとがふうりんきいてねむったよ
おこめにも小さな白いはなさいた
母の手にわたしのしらないお年玉
かまくらでぎょうぎよくならんだひざっこぞう
しゃぼん玉まわりのけしきを運んでいく
秋風のシャンプーリンスをつけてみよ
冬の木は雪の重さでうなずくよ
目を広げ両手も広げかるたとり
わらべ歌さぎちょうの火を大きくする
クーラーをうならせているおるすばん
つうしんぼこれで決まるぞお年玉
寒鯉はぼくを見ているかもしれない
きび畑きつねがたまに顔見せる
身がまえた清水選手は寅のよう
お使いはせみのぬけがらブローチに
テレビ見る足が寒いとネコのせて
飛んできてすぐ丸くなる冬の鳥
ぼんおどりうちわの先に星一つ
中身ないポケットみたいな冬の空
富士山を見上げて自分も高くなる
鉄棒につめたくされてる逆上り
消しゴムの消す音さえも雪の夜
ままごとのおもちゃにうすい氷あり
ジェット機の翼きらめくオニヤンマ
新品の自転車ぬらす春の雨
お正月家族みんなでトドになる
見なれてる街が絵になる雪の朝
年賀状だれかに電話したくなる
手が届くそんな気がする冬の空
ビール飲む父を家族が見ておりぬ
氷張り空も一緒に閉じこめた
日めくりをめくって一つ夏が減る
焼き芋屋白くきれいなけむりはく
冬銀河マリオネットになる私
黒船が再来してる沖縄に
ドロップをなめおわったらさみしいね
ジャッパーン日本の海に飛びこんだ
はしゃいでさ線香花火泣いちゃった
カラオケをたたいて謡う祖父の酒
坂道の行手に海と祖父の墓
アンコウの口の奥には冬の海
冬五輪様変りする母の郷
形のない明日ってやつ信じる僕
ねぼうして年賀はがきに起こされる
夕暮れの砂場に残るお山かな
私から最後に渡す白い菊
ケーキ焼くシフォンのような冬の朝
十二月壁にはりつくカレンダー
年明けて何も変らぬ朝が来る
卒業の手前でとまったカレンダー
マフラーを編みたくなった17歳
人形のごとくあなたに嘘をつく
原爆よ私の知らない夏がある
つないでる左手だけに春が来た
雪原やまるで私の答案用紙
マグカップセーターの袖のばし持つ
風花やとなりに誰か居てほしい
霧かかる小樽の町のオルゴール
吐く息が雪よりも濃い北の町
男とは女を知らぬ貝柱
茶わんが消える父の単身赴任
春の山クレヨンたちが目をさます
行く雲の先を見つめて卒業す
天高し進路きまらず焦るボク
サクランボ一人のきみを見たくない
カレンダーはずした後の壁の白
先頭をきれいになって夏祭
伴走の白バイも吐く白き息
横倒し若き賀客のブーツかな
山猿の海見えるまで登りけり
今までに何度殴りつけた鏡
シャッターをくぐり抜け明日を奪取する
髭づらの父が微笑み山眠る
春ノ水口ニ含ミテ誰ヲ恋フ
二十五歳覗けばそこは万華鏡
夢一つ落ちたところに芽をひらく
波を見る瞳の中に夏が来る
遠浅の夢をみている薄暑かな
つなぐ手をまた熱くする冬の風
ささ舟のかならず沈む箇所ありて
ふいに抱かれて背中越しの水平線見る
春の窓ガラスの食器置いてみる
秋鯖やまだ友情を信じをり
さみしさはゆきふるよるのうみのいろ
ペパーミントの走り根香る鍬始
寒卵悲しみもひと息に割る
日だまりを拭きとるように猫あるく
背伸びして息子の髪の桜とる
水滴をてんとう虫がひとつ飲む
雀斑は母親ゆずり春立ちぬ
風が竹林を抜けて青くなった
ウィンドウに木枯しだけが写りけり
後ろから呼び止める声大花野
紅葉愛でついでにぼそと死ぬ話
おさな子のふたり跼める菫かな
神さまのことばみづいろひやしんす
嚔してスペルの頭失なへり
片栗へ屈みて同じ陽を受けし
芒原より釣竿三本現われる
赤い靴捨てず用いず終戦忌
みんな静かにアネモネは今夢のなか
凍蝶のきらきらと来て退院す
風邪引いて少年に恋生まれけり
花火師の老いて最後の空焦す
母の日の小さき母と一日ゐる
尼僧去り足跡もまた桜なり
江ノ電の追いかけている小春かな
片目だけ海をみつめてサケ干さる
春めくや実習生の深き礼
車椅子の丈にしゃがみて息白し
晩年をとろとろおぼろ昆布かな
風花や給油中なる霊柩車
万歳をして秋天へ縮む母
淋しさを百万連れて霙降る
寒林の銃声われを狙ひしか
長閑さに一本道の撓ひたり
白梅や軍国少女共に老い
木の芽晴パン屋童謡乗せて来る
凧揚げていずれこの子も村を出る
口重き少年とゐる春の鹿
短日や歯科の待合い皆無口
ゆっくりと寒鯉沈み紙の里
人待ちてアカシヤいつか暮れそむる
いい風を読んでる母の烏賊すだれ
冬三日月脳髄の端切りにくる
葱焼いて同級生といふ仲間
討入はやめた蕎麦にしよう
春愁を解体すれば水となる
鰯雲少女一人にバス止まる
手話使ふ人へ音なく萩こぼる
どの山も眠りつづけるかも知れぬ