伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第九回
文部大臣賞
雛あられかごいっぱいの銀河なり
いま私の両親はスイスにいて、僕だけイギリスの日本人学校に入っています。スイスもイギリスも星空がとてもきれいで、空いっぱいに銀河が輝いています。小さい頃、日本で雛祭りの時に見たビニール袋に入った色とりどりのきれいな雛あられを思い出して、空いっぱいにイメージを重ねながらこの句を書きました。学校の授業で書いたのですが、受賞の知らせを聞いてほんとにびっくりしました。
留学先のイギリスの地からは夜空が澄んで銀河がきれいに見える。その銀河の帯を見ながら、作者は、故郷行事の雛祭りに食べて彩あざやかな雛あられが星のように散らばって、自分の籠(あるいは精神)いっぱいに充実した思いを強くした。雛あられは、もともと携帯食料、野外の祭りにふさわしい。あふれる銀河の光を作者は雛あられの籠いっぱいの夢に見立てたのだ。
小学生の部大賞 (幼児含む)
さわりたい校長室のゆうしょうき
運動会の黄色い大きな優勝旗が、校長室に飾ってあります。黒いさおに結ばれていてとても立派です。僕たちは運動会で優勝できなかったので、校長室に掃除当番で行った時、どうしても優勝旗の触ってみたくなって、こっそり触ってみました。
スポーツの名門校であろう。校長室に優勝旗が麗々しく飾ってある。房のついた旗に触れてみたいと思うが、生徒は自由に出入りできない。それだけに余計に触れてみたい思いが湧く。来年は他校に移る可能性も多い。それだけに、と思う心の動きがおもしろい。
中学生の部大賞
海は空空は海だけ映してる
私は海を眺めるのが大好きで、よく見に行きます。テレビや新聞などで、自然保護や環境問題などがよく言われていますが、空と海の青い色だけは変わらなし、またいつまでも変わらないでいて欲しい、そんな思いを句にしてみました。
するどい句。いま眼の前に海があり、その上に空がある。あたり前のように見えて実景を想像してみると、他の景色には何も触れずに、それだけの対比で海と空の存在感を示している。景を極端に簡素化してイメージを浮き上がらせたのは立派。
高校生の部大賞
霜柱君に日本は重たいか
小さい頃、よく霜柱を踏んで遊んだものでした。寒い朝、地表を持ち上げている霜柱はなんとも力強さを感じさせてくれます。こらから大人になって行く自分の未来が果たしてどれほどのものなのか、そんな不安と希望も霜柱のイメージに重ねあわせてこの句を作りました。
問いかけの句であり、擬人法を使って、さらに今の日本の難しさを踏まえているのがおもしろい。土を突き上げる霜柱のつよさと、寒さと温かさが定まらない今年の季節を暗示して、現実の重たさを、なんとか支えてくれよとの願いも見えている。
大学生・専門学校生の部大賞
別れ来て向日葵どんと活けました
去年、仲良しの友達が引っ越していきました。送別会は盛り上がって楽しかったけど、翌日、ふと寂しさが込み上げてきました。そんな時、ちょうど庭で大きく元気に咲いていた向日葵になぐさめられた思い出です。俳句にする時「活けました」と変えてみました。
別れることが珍しくなった時代。きれいさっぱり別れてきて、大輪の向日葵の花を大ぶりの壷にたっぷり活け込んだ。へたな感傷より、現実に負けない明るさで明日からの日を回していこう。どんと行こう新しい人生を。
一般の部A大賞 (40歳未満)
真っ白な予定なんでもできる夏
昨年の夏、夏休みの予定が話題になって、聞くとみんな旅行とかでスケジュールがいっぱいでした。社会人一年生の私は、全く予定がなくて、手帳は真っ白。夏の青い空と日差しの下で、ちょっと寂しく、だけど「これから何でも予定が入れられる」という期待を持ちました。
夏はいちばん行動的な季節だ。海外では長い休暇を取る。日本でも夏は若者にとって春や秋以上にたのしい予定が立てられるシーズン。何をしようか、どこへ、どのように、気のあった仲間たちと、あるいは家族と、ときには一人で…と、今はまだ真っ白な予定だけ。
一般の部B大賞 (65歳未満)
春泥にテレホンカード落しけり
買い物の途中、ちょっと家に電話しようと思った時、テレホンカードを、足元の泥水の中に落してしまいました。アスファルトばかりの現代で、ぬかるみこそ見かけなくなりましたが、汚れたカードを拾おうとしながら、ふと「これも春泥かな」と思いました。
四角な薄いテレホンカードを春のぬかるみに落してしまった。テレホンカードは時代の象徴。そこは使用以後の声が詰まっているし、さまざまなデザインと実用性のある軽さと薄さこそ現代のイメージを象徴している。それをぬかるみに落した。その瞬間の軽い虚脱感もあろう。
一般の部C大賞 (65歳以上)
白くって青くって空うごいてる
耳は少し遠いんですが、からだは元気で、毎日一時間くらいは散歩しています。空を見て思ったままを書きました。日記や手紙はよく書きますが、俳句はこれまで書いたことはありません。娘に言われて応募してみたら、賞に入ったというのでびっくりしています。
九十才にして、この感性と率直な感動は、おどろきでもある。空の白さと青さ。日の光や雲の流れで刻々と変わる空を眺めていて、空は動いているのだなぁ、行きているのだなぁ、そしてそれを見ている私も元気よく生きているのだという実感が素直に伝わってくる。
英語俳句の部大賞
barbed wire
above the coalyard wall;
blackbirds in a tree
訳/ 貯炭場の塀の上に有刺鉄線…樹上に黒い鳥
貯炭場の塀の上に有刺鉄線、樹上の黒い鳥の群…昔の白黒映画を想わせる奥行きのあるシーンに、有刺鉄線が光り、木の上には不吉の鳥とされる黒い鳥が群れている。暗い心象が緻密に描かれているのだが、ただ暗いということに終わらず、樹上の鳥の生命の及ぶエポジーに救いがある。彫りの深い句。