伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第二十四回
審査員賞
入道雲さて何しようと走るぼく
入道雲は少年の日のシンボルだ。入道雲を見ればこころが動く。衝動に駆られる。それは希望にもたとえられる。だから、作者の「ぼく」は何かをしようとして走るのだ。
人の時間地球といっしょに回ってる
地球といっしょに廻っているものはたくさんあるわけだが、わざわざ「人の時間」と念を押した理由は、ほかの生きものとは違う時間、ということだろう。作者吉本君は沖縄の人。沖縄の負の歴史の記憶がこびりついている。それを言いたかったのだ、と私は思った。
ばあちゃん家言葉の壁を越える夏
「ばあちゃん」という親しみのこもったフランクな言葉と「言葉の壁を越える」という深みを帯びた言葉が掛け合わせられて、絶妙な句に仕上がっている。年齢や言葉の壁を超えて繋がるばあちゃん家体験。記憶が鮮明に蘇りました。
空振りが夏を二つに切っている
すかっとして気持ちのいい句だと思いました。ホームランではなく、空振り、というところがいいのです。でも勢いは半端でなく、夏を二つに切っている、と言いきってしまう。頼もしいです。
柚子風呂で難しい顔の一歳児
昔から、赤ん坊はときどき哲学者のごとき気難しい顔をするものだと面白く思っていた。この句を読んで、幼い弟をお風呂に入れたときの情景を思い出した。赤ん坊との日常のささやかな瞬間を切り取った微笑ましい一句である。
夕立の匂いがわたる虹の橋
夕立が立ち去ったのです。さーっと涼しくなってここちよい大空に虹が懸かりました。あたりには夕立の名残りの雨の香が漂っています。美しい虹の橋を夕立の残り香が渡ってゆくと感じとった作者の感性は見事です。
秋風や空にひらがな地に漢字
秋風の吹く季節。落葉が空に舞い上がってひらがな模様を描き、地に落ちては動かず漢字模様で静まり返る。そんな秋の風景。空の動と、地の静の対照で、落葉を通した秋の季節の動きをとらえている。作者の年輪にふさわしい境涯感ともみえるような風景。