伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第二十四回
文部科学大臣賞
新幹線秋を真横に走ってる
修学旅行で乗った新幹線で、きれいな紅葉がスピードにのって真横に流れていく光景に感動して 詠んだ句です。
秋の爽やかな空間を、新幹線が走り抜けます。独特の流線形の車両の頭が、空間を切り裂くように突っ走る。「真横に」と捉えたことで、見ている画面の下三分の一あたりを、水平に切ってゆく感じになります。背景に雪をいただいた富士山の見える東海道。「秋を真横に」で、見事な秋の空間を横断する緊張感が生まれ、それを「走ってる」と、平易な言葉で表現し、スピード感と躍動感が感じられます。また、作者の「見て、見て」と叫んでいる様子も想像できます。
小学生の部大賞 (幼児含む)
満月の美しさに負け雲消える
柔道の帰りに空を見上げると、満月を覆っていた雲が晴れて、きれいな満月が出てきたのを句にしました。
夜空に満月が出ています。月の出はじめは雲がかかっていたのに、次第に雲は消えていき、満月だけが大きく輝いています。雲は満月の美しさに負けたのでしょう。満月の女神に恐れをなしたに違いありません。「美しさに負け」という言い方は、大人がいうと理屈めいて感じられますが、子供がいえば素直な感想のように聞こえてくるので不思議です。まるで「うわーすごい」という声が聞こえてくるようです。
中学生の部大賞
月光は薄きまぶたを通りけり
月光を浴びて、その光が薄いまぶたを通り、なかなか寝付けないことを句にしました。
月の光を浴びながら目を閉じていると、まぶたを通して月光が射し込んでくるのがわかります。 まぶたは月光に照らし出されて、明るんでいるようです。瞳の奥にまで光が届くのを感じています。「薄きまぶた」が、月光の照射感を確かに捉えているからです。これは作者自身の体感ともいえますが、あるいは同じ年頃で女性の友達の様子とみてもおかしくないでしょう。
高校生の部大賞
君の声カゲロウ越えて響いてく
夏休みに学校で文化祭の準備をしていた時の事です。とても暑い日でグラウンドを見ると、野球部が練習している姿が見えました。その声や姿が印象的でこの句を作りました。
「君の声」の「君」とは、作者の大切な友人。「カゲロウ」は、「陽炎(かげろう)」でしょうから、揺らめくような情感の揺れは、異性に対するものとみてよいのではないでしょうか。意中の人の声は、陽炎の向こうまで響きわたるのでしょう。その甘やかな声の透明感は、作者自身の心にも染み透っていきます。カタカナ表記する必然性に戸惑いましたが、おそらく陽炎の異空間でさえ、「君の声」は乗り越えていくことを強調したかったのでしょう。
一般の部A大賞 (40歳未満)
金魚にはなれない黒きスーツ着る
金魚のようにのんびりとした自分には、未だ日々の慌しさに慣れないままだけれど、金魚のような華やかな存在にもなれないのを知っている。だから日々をふつうに、生きていく。それがいい。そのあっけらかんとした諦念を黒いスーツに込めました。
「金魚にはなれない」と俯瞰して自分を見ている、この句の主人公は、黒いスーツを着る前は、金魚のようなのんびりとした人だったのでしょう。黒いスーツにはそれこそ金魚のような華やかさは無いけれど、決して悪いものではありません。急に大人びたように見え、また前向きな決意も感じられます。日々を堅実に生きる作者の姿がそこにはあります。そんな日々も決して悪いものではないのです。
一般の部B大賞 (40歳以上)
アマゾンに九十二才の初鏡
アマゾン川流域に住んで60年になります。92歳まで生きられたことの感謝を込めて、この俳句を作りました。初鏡は正月の季語です。
これはどうやら作者の自画像のようです。ブラジルはアマゾンの流域に住んで、九十二才の新年を迎えられた。遠く離れていても、祖国日本の生活習慣にのっとり、新年の身だしなみの初化粧をする。どうやら今年も新しい年を一つ加えることができました、お陰様でなんと、九十二才の年ですよと。それは、鏡に向かい少し華やいだ気分で、自分自身に言い聞かせているようです。ブラジル在住でも今もなお、祖国のことを忘れることはないのでしょう。
英語俳句の部大賞
Dragonfly
Let me see through your eyes
Thousands of autumns
訳/ トンボさんその眼に映るたくさんの秋を見せてよ
トンボの頭の大半を占める複眼は、小さな個眼が多数集まっていて、物の形や色彩、運動を弁別します。山地、草原、水辺と広く飛びまわるので、さぞかし種々な秋景色を見せてくれます。トンボに親しむ少女の、旺盛な好奇心と着眼が素晴しいです。