伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第三十五回
佳作
お菓子より安いお肉を探してる
初筑波電車の窓を滑りけり
静寂は時に誰かを傷つける
新しい街新しい角度の月
カタバミが弾けたやうな胸の裡
紫陽花の雫落ちたら夏よ来い
年の暮チラシを着込む掲示板
冬晴や七光りする免許証
伊勢海老の意味も聞かずにかぶりつく
狭い道登ると広がる奥多摩の緑
秘密基地掻き分け行くぞ泡立草
ずぼら飯パセリかければ五つ星
雷よ私を隠すように鳴れ
「まあまあよ」浪人生の袖黒し
いくばくかわたしを赦すいわしぐも
夜行バスカーブのたびに触れる肩
愛おしい誕生日出しすぎたケチャップ
ともだちとおさけとビールのみました
道に落つ影の先まで良夜かな
星の海夢を運ぶよ夜空の舟
助手席で父の横顔里帰り
ナースシューズを紅く染めた産声
研究室鍵を閉めたら冬の月
里帰り母若返りいとあやし
寂しさが加速していく二人旅
かけっこの子はふりむいて夏の風
涼風と水面耀く湖の影
ザリガニに足並み合わせ延ばす暮れ
がらんがらんどう僕の胸が本当に
雨の日に心も濡れて帰りたい
アイディアが砂漠のように乏しいな
中秋日ふるさとの方に月を見る
宿題を忘れて廊下に最上川
六畳で夢を拡げる春の音
「変わってる」言われる貴方と夏の鍋
青空が優しいだけの自習室
夜行バスに乗るためだけにいる渋谷
階段にほこり古べば蝶の昼
つながったままの沢庵振って食う
婚姻し婚姻色な魚見た
縁側と風がめくった文庫本
秋雨を表すならば半濁音
電柱にカラスぽつんと冬の朝
電話鳴り急いで帰る鬼の役
飛行機の飛んでく向きで秋を知る
この星に振り回されては生かされる
カフェラテは恋を知らない頃に戻れぬ
唐揚げの最後を譲り合う春だ
ほやほやの秋を追いかけベビーカー
葉桜や産後の妻の深呼吸