伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第三十三回
審査員賞
あの夜に兄がみていた流れ星
仲よしの兄と妹。流れ星という美しい存在。忘れられないその夜。流れ星を見つめていた兄さんの表情と立姿。妹である作者のたましいに刻まれたその夜の記憶。心にしみる俳句に出合いました。感動しています。
単語帳ボレロのリズム春の風
ラベル作曲のボレロは名曲中の名曲。タンタタタタン〜から始まるリズムが、高揚感あふれる曲ラストまで続きます。膨大な量の単語を暗記する大変さと同時に新しい知識を蓄えていく喜び、この両方が見事に表現されていると思います!
雷の「か」の字も知らぬ子猫かな
子猫はよく遊び、よく眠ります。まだ世の中に恐ろしいものが在ることを知らない無垢の愛らしい輝きを描きつつ、実はそれに向けられる守護のまなざしの方こそが主役の素敵な句だと思いました。
プリントがリュックの底で老いていた
学生時代の長い休みとか長い忙しさとかそういうものが過ぎたあとの、ふとした時間が思い浮かぶ。リュックの底で古びてしまったプリントを発見するあの驚きの瞬間。紙の状態を「老いた」というのが実にうまい。
白波の砕けた狭間の子蟹かな
ぼくも、岩場、波、蟹、のつくり出すシーンを、何度も見た。その瞬時が言葉になって鮮やかに残された。
つなぐ手に試されているような春
その気持ちわかるような気がします。楽しくって、幸せなんだけれど、うーん、ちょっと待てよ、と不安にもなる。二十歳の春の、ほほえましい感覚。羨ましいな。どんどん行っちゃって下さい。
ひこばえや自粛期間に伸びた背
コロナ禍の長い自粛期間を経て、久しぶりにひこばえを見ると、すっかり新芽が伸びていました。いつの間にか次世代の芽が芽生えていたのです。生きものの命の力は、どんな環境にもめげずに育ってゆくものなのですね。「背」に、親身な命への思い入れを感じます。
Wi-Fiの飛んで蛍になるらしい
新しいものについてよくわからないのだけれど、飛んでいるものらしく、しかもふわふわと浮いている。それはまるで蛍と同じではないかと無理やり納得させてみる。そう思えば心が少しは落ち着く。
水色を一筆花に深呼吸
水彩画を思いました。「水色を一筆」、春の淡い青空を描きます。見上げる空の下には、ひかりのような桜。「花」の咲き満ちる清潔な空気。深々と吸う息。次々に絵筆を走らせる、美しい時間です。