伊藤園 お~いお茶新俳句大賞
第二十五回
文部科学大臣賞
プロポーズされそうなほど冬銀河
自宅近くで見た夜空は、空気が澄んで満天の星がとてもきれいでした。私は夜景などが見えるロマンチックな場所でのプロポーズに憧れていて、このときの夜空は、伝えようと思っていなくても、プロポーズしてしまいそうなほどきれいだったので句にしました。
冬の銀河は、寒気のなかで冴え渡り、星の輝きも、夜が更けるにつれ、ますます美しい。そんな夜空を、二人きりで見上げているのでしょう。星の光を浴びていると、心が素直に解きほぐされて、大切な気持ちがこみあげてくるような気がします。こんなとき、なんだか相手からプロポーズされそうな気配を感じます。いや、それを求めている気持ちを察してくれそうな気がするのかもしれません。冬の澄みきった空気の中、美しい銀河の輝きが、その気配を後押しする様子が、目に浮かぶようです。
小学生の部大賞 (幼児含む)
初夢で富士より高く跳んでいた
高跳びを習っていて、世界遺産に登録された富士山よりも高く跳んでみたいと思い句にしました。
初夢で縁起がいいのは、「一富士、二鷹、三茄子」といわれ、中でも富士山の夢は一番験がいいとされています。その富士山よりも高く跳んでいる夢を見たということは、これはもう飛び切り縁起のいい初夢ですね。今年はなにか特別にいいことが起こりそうな気がしてきます。紋切り型の常套句が、「高く跳ぶ」という発想で吹っ切れています。
中学生の部大賞
君と解く桜の下の方程式
春になっても、好きな人と同じ高校に通えればいいなという気持ちを句にしました。
好きな友達と一緒に、桜の木の下で数学の宿題を解いています。ちょうど満開の時期。別に花見がてらに宿題をやっているわけではなく、たまたま家の近くに桜が咲いていたのでしょう。桜の下で、二人で方程式を解いていると、難しい問題でさえもすらすら解けていくような気がしてきます。この場合の友、つまり「君」は、ガールフレンドなのかもしれません。どこか心も解けあって、桜色に染まりそうな気配が感じられます。
高校生の部大賞
冬の夜自転車をこぐ僕深海魚
冬の夜自転車をこいでいた時、夜の暗さと空気の冷たさが、まるで深海のようだと思い、句にしました。
学校からの帰宅中か、あるいは夜の塾通いをしている高校生が浮かんできます。自転車で通ういつもの暗い道。その中を行く「僕」は、まるで深海魚のように夜の景色のなかに溶け込んでいます。冬の夜の寒さに、厚着をしているのでしょう。昼間の疲れが気持ちの重さに重なって、ペダルをこぐ足取りも重く、やや蛇行しながら這うように進んでいきます。でも行かなければなりません。その表情には、深海に暮らすダイオウイカのような物憂さが感じられます。
一般の部A大賞 (40歳未満)
僕がいる僕らはいない夏怒涛
夏の日、海の波が風で大きくなったり、小さくなったりしているのを見て、海は長い年月、変わらず波立っているけれど、自分の側にいる人はどんどん変わっていくと思ったことを句にしました。
夏の炎天下、白い波頭を立てて激しく打ち寄せる波を前にして、一人佇んでいます。夏休みの終わった今、一緒に遊んだ仲間たちはもういません。「僕」だけが思い出の浜にいます。おそらく、「僕ら」にとって最後の夏休みだったのかもしれません。その淋しさもさることながら、別々の道を選んでいく決意のようなものも感じられます。「夏怒涛」には、単なる淋しさに終わらない、未来に立向かう意志があるようです。
一般の部B大賞 (40歳以上)
金婚を祝ぐ三月のオムライス
三月に金婚式を迎えました。夫婦二人ともオムライスが大好きで、行きつけの店でオムライスでお祝いをした時のことを、句にしました。
時は三月の結婚記念日。金婚式を迎えたので、夫婦二人で好物のオムライスでも食べてお祝いしようと、行きつけのレストランに出かけたのでしょうか。二人きりで、慎ましやかながら、心のこもった祝いの膳。こんな時、あらたまった挨拶などは野暮というものです。せいぜいこれからもよろしく、程度でしょうか。春三月は、ようやく春らしくなり、花々や鳥の声もにぎやかになります。結婚生活50周年を祝い、これからも二人、笑顔で過ごせそうな雰囲気が伝わってきます。
英語俳句の部大賞
a ski slope
footprints of foxes
next to the skis
訳/ スキーのスロープ狐の足跡がスキーの板とならんで
スキーに行ってリフトに乗ったとき、スキーの板の跡の横に狐の足跡がついているのを見て、句にしました。
人が遊ぶスキー場は、別の時間帯では狐の生活の場です。スキー板と狐の足跡だけをありありと並べ、自然界の共存のさまを見事に表しています。英語もシンプルで効果的です。